みなさん、こんにちは!早大ロシア・ソ連音楽愛好会会長のMashaです。
今日は、私が数あるロシア・ロマンスの中で「最も美しく、最も切ない」と断言する至高の名曲をご紹介します。
そもそも「ロシア・ロマンス」とは何かというと、18世紀末から19世紀にかけてロシアで独自に発展した「芸術歌謡(クラシック歌曲)」のこと。
西欧のリート(ドイツ歌曲)などの影響を受けつつも、ロシア伝統の哀愁を帯びたメロディと、一流の詩人たちによる美しい詩が融合した、まさにロシア文化の至宝とも言えるジャンルなのです。
(厳密には20世紀初頭の流行歌など含む場合もありますが、それはさておき)
今回ご紹介する曲のテーマは、夜空の「星」。 夜空を見上げたら、無数の星々が輝いている……そのうち最も明るく、最も美しく光り輝いているのが、あなたへの愛の星。
そんなロシア・ロマンスを代表する一本の美しいメロディの裏に隠された「激動の歴史」を、我がアジトに潜伏中の住人たち――帝政警察に追われて21世紀の日本に潜伏中の半人半獣ボリシェヴィキ「同志ミーシャ」と、秘密警察の目を盗んで亡命してきた気高き貴族の生き残り「プリンセス」――と一緒に紐解いていきましょう。
👑プリンセス、涙の御前演奏~歌詞紹介~
有名な曲ですので歌詞は何パターンかあります。そのうちの一パターンを紹介します。長くなって申し訳ない。。。
【ロシア語歌詞】
Гори, гори, моя звезда,
Звезда любви приветная!
Ты у меня одна заветная,
Другой не будет никогда,
Ты у меня одна заветная,
Другой не будет никогда!
Звезда любви, звезда волшебная,
Звезда прошедших лучших дней!
Ты будешь вечно незабвенная
В душе измученной моей,
Ты будешь вечно незабвенная
В душе измученной моей!
Твоих лучей небесной силою
Вся жизнь моя озарена;
Умру ли я, ты над могилою
Гори, сияй, моя звезда!
Умру ли я, ты над могилою
Гори, сияй, моя звезда!
【日本語歌詞】
輝け、輝け、私の星よ
愛の優しい星よ!
君は私にとって唯一の大切な人
他の人は決していない
君は私にとって唯一の大切な人
他の人は決していない愛の星、魔法の星
過ぎ去った最良の日々の星よ!
君は永遠に忘れられない
私の疲れ果てた魂の中で
君は永遠に忘れられない
私の疲れ果てた魂の中で!
君の光の天上の力によって
私の人生すべてが照らされている
たとえ私が死んでも、君は私の墓の上で
輝け、光り輝け、私の星よ!
たとえ私が死んでも、君は私の墓の上で
輝け、光り輝け、私の星よ!

(美しいイントロを聴きながら、ハンカチで目元を拭う)
……ああ、なんて美しく、気高く、そして哀しい旋律かしら。私の疲れ果てた魂が洗われるようですわ。これぞ我が愛しきロシア帝国の、滅びゆく美の極致ですの。
たとえ私が死んでも、私の墓の上で輝き続ける星……まさに、失われた祖国への愛そのものですわ

おいおい、冒頭から随分とロマンチックに浸ってやがるな、お嬢様。だがな、歴史を歪曲するんじゃない。
この曲、もともとはお前たち貴族の愛国歌でもなんでもない、ただの『海王星ブームに感化された医学生の衝動的な詩作』から始まった歌だぞ?

海、海王星の詩作……!? なんて不敬な言い草かしら! Mashaさん、こいつの口を今すぐタピオカで塞いでくださらない!?
🪐始まりは「海王星」の発見だった!?
そうなんです(笑)。ミーシャの言う通り、この曲の誕生のきっかけは、1846年のフランスでの「海王星の発見」という天文学ニュースでした。
当時、モスクワ大学の医学生だったヴァシリー・チュエフスキーくんが、モスクワ700周年の創作コンクールに出す詩のネタに困っていたところ、このニュースが飛び込んできたのです。「これだ!」と閃いた彼は、碧く輝く未知の惑星(海王星)をイメージして『輝け、輝け、私の星よ!』という詩を書きました。
この詩にはすぐにメロディーが付けられ、ロシア・ロマンス歌謡となりました。一時期は学生や芸術家の間で頻繁に歌われますが、すぐに忘れ去られてしまいます。

……とはいえ、海王星は肉眼では見えないし、そもそも自ら光を放つ天体でもない。太陽の光を反射しているだけだ。それを『輝け、輝け』と大騒ぎしてロマンスにしてしまうあたり、実に対象を客観視できていないブルジョワ的感傷主義だ

お黙りなさい!肉眼で見えなくとも、心で見えればよろしいのですわ!……まぁ、その後すぐに忘れ去られてしまったのは残念ですけれど……
⚔️「愛国歌」への変貌、そして提督・コルチャークの影
この曲が再び歴史の表舞台に現れたのは、それから70年後。第一次世界大戦中の1915年、現役の義勇兵でもあった歌手ウラジーミル・サビニンが編曲してカバーしたことで、運命が一変します。
「君は私にとって唯一の大切な人、他の人は決していない!」
この歌詞が、戦時下の民衆にとって「唯一の愛すべき祖国(帝政ロシア)」への愛国歌として解釈され、大ヒットを記録。
そして1917年、ロシア革命が勃発すると、この曲は決定的な「政治の色」を帯びることになります。

(毅然とした態度で)
そうですわ。ロマノフ朝が崩壊し、あなたたちボリシェヴィキが政権を強奪したあと、祖国を取り戻すために戦った白衛軍(反ボリシェヴィキ)の間で、この曲は心の支えとして深く愛されたのです。
特に、白軍の総司令官であるアレクサンドル・コルチャーク提督はこの曲の大ファンで、ご自身で作詞したという噂が出たほど愛しておられました!

俺は作曲してないがな。
まあ俺についてはwikiを見ろ↓


(露骨に嫌そうな顔になり、舌打ちする)
チッ……コルチャークの名を出すな、血圧が上がる。
あのシベリアの独裁者が愛唱したせいで、この曲は我々ボリシェヴィキから『反革命のシンボル』として完全にマークされたんだ。
だから1920年代初頭には、ソビエト全土で『演奏禁止』にした。この曲を歌うことは、ソビエト権力への反逆(テロ活動)と同義だったからな

なんて野蛮な文化の破壊者かしら!美しい歌に罪はありませんわ!

罪はあるさ!歌は時に銃剣よりも鋭いプロパガンダの武器になる。
……だが(ボソッ)、Mashaの調べによると、演奏禁止と言いつつ1939年や45年の大戦期にもこっそりレコードがプレスされてたらしいな。当時のソ連の検閲官も、裏ではこのメロディの美しさに屈服して、こっそり蓄音機で聴いてたんじゃないか? 現代の俺がコンビニスイーツに屈するようにな……
↑1945年盤です。音源はhttps://www.russian-records.com/details.php?image_id=9223からダウンロード可

あら、急に自己反省(客観視)を始めましたわね。よろしいことですわ
👼「ポーランドの歌う天使」アンナ・ゲルマンの祈り
その後、公式には1957年の映画『戦争と平和』をきっかけにソ連国内での復権を果たしたこの曲。多くの歌手が歌いましたが、歴史のすべてのカルマを包み込んだ「最高傑作」とされるのが、冒頭で紹介したアンナ・ゲルマンのカバーです。
彼女は「ポーランドの歌う天使」と呼ばれ、大事故による長いリハビリを乗り越えて奇跡の復活を遂げた伝説の歌姫。誰もが、彼女が自身の過酷な運命を星に重ねて歌っているのだと思いました。しかし、現実はもっと深く、痛切な理由があったのです。
実はソ連出身だった彼女の父親は、スターリン期の大粛清によって命を奪われていました。 アンナ・ゲルマンがこの曲に込めた「疲れ果てた魂の中で、永遠に忘れられない星」とは、大粛清で消し去られた最愛の父への、精いっぱいの祈りだったのです。

(涙が止まらない) なんという悲劇……。スターリンの恐るべき大粛清が、これほど美しい歌姫の家族まで引き裂いていたなんて。彼女の天上の歌声は、天国の冷たい星になったお父様へと届く、あまりにも純粋な祈りだったのね……

(帽子を深く被り直し、静かに俯く)
……大粛清(37年)か。コーバ(スターリン)の野郎、やりすぎやがって……。俺たちボリシェヴィキが夢見た『労働者の理想郷』は、あいつの恐怖政治のせいで多くの無辜の民の血に染まった。
アンナ・ゲルマンの歌うこのロマンスを聴くと、胸が締め付けられるのは……俺たちの世代の『やらかし』の重さのせいかもな。この曲の前に、右も左もねえよ。ただただ、美しい。それだけだ
🎧 Mashaの「聴き比べ」セレクション!
悲哀に満ちた歴史を超えて、現代でも歌い継がれるこの曲。Mashaおすすめの歌い手たちをご紹介します!
・アンナ・ゲルマン:上述の通り、すべての人類が静聴すべき、魂の浄化の歌声です。
・ディミトリー・ホロストフスキー:シベリア・クラスノヤルスク出身のオペラ界のトップスター。彼の深く、地鳴りのような気高いバリトンで聴く『私の星』は、大国ロシアの広大な大地そのものです。
・オレグ・ポグージン:当サイトお馴染み「ロシア銀の声」。彼がコンサートで必ず歌うお気に入り。「愛の曲であり、祈りの曲でもあるから」という彼の解釈に、2人も深く頷いています。

・ジーナ・ガリーポヴァ:タタールスタン出身、ユーロビジョンロシア代表。透き通るような現代的なアプローチが新鮮です。

ふぅ……今回の解説は少々感傷的になりすぎたな。党の活動(日本語の勉強)に戻るか

あら、目元が少し赤いようですわよ、ミーシャ? 帰りに新大久保でタピオカでも配給して差し上げましょうか?

……今回は、ありがたく配給を受ける。カロリーは心の労働にも必要だ
世界を揺るがした激動の歴史の裏で、今も夜空に輝き続ける『私の星』。 みなさんはどの歌声が一番心に響きましたか? ぜひ、静かな夜に聴いてみてくださいね。
早大ロシア・ソ連音楽愛好会 会長:Masha



